橋(後篇) |
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| 古びたコートの立てた襟と、目深に被ったつばの大きな帽子のせいで、表情は定かでなく、小柄な子どもの瞳には真一文字に引いた薄い唇だけがかろうじて映る。二人分の体重を支えるにはあまりにも頼りない橋が、ぎしり、ぎしりと不穏な音を立てる。耳を塞ぎたくなるような悲鳴が止む気配はない。 「君は、薬を買いに行きたいんだね」 意外にも、その口は開いた。(さらに意外なことに、男は饒舌だった。) 「私はあちら側から来たのだが、」 頷くこともできずに青ざめている子どもへと、言葉を紡ぐ。 「橋を渡ってきたということは、頼まれ物だね。家族の分もあるのかい」 不思議な声音につられて、子どもは返した。 「お、お、おかあさ、さんの」 喉がカラカラに乾いている。舌がもつれる。 「そうか。大事なお母さんの薬か。それは無事に渡らないといけないね」 男は口調を変えぬまま、穏やかに答えた。手を出すように言い、伸ばされた小さな左手へと、よれよれのコートから何かを取り出して持たせた。 「これをしっかりと握ってごらん。そうして、目を固く瞑るんだ。」 掌に収まるほどの大きさで、じんわりと温かく、しっとりしている。丸みを帯び、弾力がある。子どもが今手にしたものを見ようとすると、見るな。男は素早くそれを制し、びくんと反応した肩に声を和らげて、いいと言うまで、と付け加えた。 慌てて折り曲げた四本の指を、確認するように強く押さえ込むと、男はさあ、と囁いた。もはや瞬きさえ、橋を揺らす呼び水となるような気がした。子どもは体を強張らせ、立ちすくむ。上から降ってくる声は風貌に似合わず慕わしかったので、このまま従ってもいい気がする。だが、全く怖れがないわけでもなかった。すぐに何もかも言いなりになるのにはためらわれ、薄目で男の膝を眺める。さあ。脛に差し掛かった視線を散らすようにもう一度囁く声に、今度こそ子どもは温かいミルクを飲むときのように目を伏せ、幾重にも迫る闇を迎えると、ついに何も見えなくなった。 川はいよいよ勢いを増し、渓谷の土を齧り取ってはまた水面の色を変えていく。目を閉じていても、いや、閉じているからこそ音によって想像は否応なしに増大する。幼い心までも削られぬよう、子どもは左手の中の何かを固く固く固く握りしめる。獣の唸り声のような風が吹き、橋は重みを空中へ放つ。川の轟きは一層激しさを増す。色素の薄いうなじをあらわにする風が去ると感じられる、自身の体温と手中の温もりだけが、自分が一個体であるという意識を引き留めている。 鼓膜を突くような音が消え、力強い羽ばたきが聞こえるようになっても、子どもはしばらく目を瞑ったままでいた。ため息のような問いに、答えは返ってこない。口の中で百を数え(父の帰りを待つ時など、母はよく数を数えさせた)、蕾が咲くように瞼を開けた。風は落ち葉をくるくると踊らせながら凪ぎ、川は山羊の毛並みを思わせるたおやかさで流れている。橋があり、子どもがおり、男はなかった。おずおずと首だけで辺りを見回すも、それらしき人影は見当たらない。透明になるのを助けてくれた左手の何かに目を落としたが、握っても開いても、見慣れた掌しかない。 何度も撥ねた水飛沫の、どれが男の背を打ち、飛んだものだったろう。あのまま二人がじりじりとすれ違っても、床板を踏み抜かずにいられる保証はなかった。 男が何者だったのか知る術はない。「あちら側」とは、今目指している対岸の先なのか、それとも与り知らぬ遠くも近くもないどこかなのか。人か人でないか。仮に男が空へ還ったとして、真上に戻ったか真下から上ったかの違いしかない。粛として訪れる冬の影に耐えられなかったのだろうか。子どもは供物を捧げる時のような動作で、見えないうちに孵った卵をポケットにしまい、蓋を被せた。子どもを受け入れた橋は一度も揺れず、二度と棘は刺さらなかった。 絡まった蔦は結び目に気付けばほどくのは容易い。半分ほどの時で渡りきり、初めての砂地を踏みしめると、ぐにゃぐにゃと波打つ靴裏の感触に驚いた。昼は次第に身を隠し、機を織るように宵が現れる。ポケットをそっと撫ぜた。立ち込める豊満な緑の匂いが、既に遥か昔に嗅いだものであるかのように思われる。子どもは慣れぬ足取りのまま、灯りの方へと駆け出した。 やがて、橋は崩れ落ち、その寿命を迎えた。新たな橋梁が架けられたという話はない。
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10月30日(日)22:28 | トラックバック(0) | コメント(3) | 趣味 | 管理
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1: ちょ、おい、まてってまぢで
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| r6og80bm おいおいおいおいおいおいおいおい! 携帯ってこんなに便利だったのかゆ http://229XV49H.au-vs-softbank.com/229XV49H/
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by けいた | Mail | 11月21日(水)18:03
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2: どうもはじめまして(´∀`)かぐやと申します。
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| j5J40gV5 かぐやと申します.。.:*・゜从n0^〜^)η゚・*:.。.ミ
☆えっちな話が苦手なので、男の人の友達がいません(つд∩) よろしくしてほしいです( ´∀`)σ)∀`) かぐやは本名です。歳は、19歳と53ヶ月です(〃▽〃) 身長は149で、重さは内緒です(  ̄ー ̄)40キロ台ですけど〜。 仕事はホームヘルパーをしてて、休日は不定期です。 好きな食べ物は、お肉です♪ お野菜よりも、お肉がたいそう好きです゚・*:.。. こういうの初めてで、とても緊張してて、何を書いていいのか わかりません。なので、お歌を歌いますね♪川n・-・)η゚・*:.。.ミ ☆ きいてください。堂本光一がよく歌う事で有名な、 宇宙刑事ギャバンです♪
男なんだろう、グズグズするなよ♪ 胸のエンジンに火を付けろ♪ 〜〜♪
お肉を食べながら、連絡待ってますヽ(°▽°)ノ 仲良くなりたいです゚・*:.。.(´ー`) .。.:*・゜ http://G7E6Xe5k.you-stream.net/G7E6Xe5k/
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by かぐや | Mail | 11月22日(木)07:36
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3: レズ娘と3P
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| 4B8HOWX2 レズビアンの娘2人と3Pしてきたんだけどw いやぁ〜〜やっぱ女の子同士の絡みって最高よね(笑) 夢のWフェラもしてもらったしw http://uBGqO4ec.rezque.info/uBGqO4ec/
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by たかつか | Mail | 1月15日(火)03:26
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